• 「人口減少に対応した経済社会のあり方」に見る経団連の独善性

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    巷間、経団連が移民受け入れ1000万人を主張していることは賛否両論流布しているが、今一度原点に立ち返ってその主張が盛り込まれている「人口減少に対応した経済社会のあり方」に議論を加えてみようと思う。

    冒頭「2.わが国人口の展望」で、2055年までに総人口が8000万人台になり、そのうち高齢者が半分近くを占める事態になるという。一方で、わが国は専門技術者などの高度人材の受け入れが18万人にとどまっていると述べる。

    続いて「3.人口減少が経済・社会におよぼす影響」では、労働人口が現在の2/3にまで縮小するとし、「このような労働人口の縮小は、経済成長を少なからず抑制するように作用し続けると考えられる。」と結ぶ。さらに人口が縮小するということは生活必需品などの基礎的な財が売れなくなることを意味する。高齢者の嗜好は保守的だから買い替え、新規需要も見込めずこれも経済にマイナスとなる。住宅投資も高齢者が増えれば新築ではなく、改築・増築が主であろうから経済効果は望めない。
    そして真打ち、財政・年金制度の維持可能性が取りざたされる。散々議論されている問題でもあり、本稿の目的でもないので割愛する。

    ではどうするのかが、「4.中長期的な経済社会の活力維持に向けた方策」である。経団連が過去提起してきた内容が列挙される。
    「一、2007年9月に「国・地方を通じた財政改革に向けて」を公表し、経済界の考え方を示した」
    「一、2008年5月には「国民全体で支え合う社会保障制度を目指して」を公表して、制度横断的な見直しを訴えていた」
    「一、直近では「税・財政・社会保障制度の一体的改革に関する提言」をとりまとめ緊急に求められる改革について提言を行った」
    これを踏まえ、本提言では (1) 成長力の強化 (2) 未来世代の育成 (3) 経済社会システムの維持に必要な人材の活用・確保に焦点をあてる。

    (1) 成長力の強化
    持続的な経済成長は、所得の増加や雇用の創出を通じて、人々に豊かな暮らしをもたらす基盤となる。
    そのために、①研究開発活動の促進、②イノベーションを担う人材の育成と招聘、③世界の成長力の取り込み、④地域の活性化と道州制の導入が必要だとする。

    (2) 未来世代の育成
    ①少子化対策への真剣な取り組み=保育サービスの拡充で待機児童を解消する。産科・小児科医の確保。子育て世代への減税
    ②教育の再生=公立学校の質の向上。教員の質の向上が必要

    (3) 経済社会システムの維持に必要な人材の活用・確保
    ①女性の社会進出の促進=政府への子育て世帯への支援の拡充、企業自身も職場環境の抜本的見直しや子育て環境の整備
    ②国際的な人材獲得競争と日本型移民政策の検討
    少子化対策が功を奏したとして効果が出てくるのは十数年の時間を要するので、アメリカや欧米を見習って移民を入れましょう
    (a) 高度人材の積極受け入れ (高度人材は世界中で取り合いになっているので確かにこれは必要です)
    (b) 留学生の受け入れ=高度人材の青田刈り
    (c) 一定の資格・技能を持つ外国人材の受け入れ。単純労働者については他国で発生した様々な問題を勘案し、今後議論を深めていく必要あり。
    ③受け入れた外国人材の定着の推進
    (a) 地域・政府・企業における積極的対応の必要性。以下長いが引用する。

    そこで、生活者としての外国人を支援するとともに、こうした問題に伴う否 定的なイメージを払拭するために、民間企業、自治体、国際交流協会、NPO 等が連携して、外国人のための住宅の確保をはじめ、外国人向けの情報提供の 充実や生活相談、また外国人自身やその子供に対する日本語教育の強化等、地 域における受入れ体制の整備をさらに進めていくことが求められる。また、受 け入れた外国人が安心して生活・就労できるようにするために、医療、年金等 の社会保障制度を改善し、セーフティネットを適用することをはじめ、政府・ 自治体による積極的・包括的な支援措置が不可欠である。
    また、就職先となる企業においても、外国人が働きがいを感じうる仕事と適 切な処遇を提供できるよう就労環境を整備していくとともに、社内においても 外国人材の受入れに対する意識改革等を進めていくことが重要となる。
    その上で、受け入れた外国人材のなかで、日本社会への定住を希望する者に対しては、教育、雇用、社会福祉等といった社会統合政策を通じて、わが国の 文化や社会への理解を深め、日本語能力の向上を図った上で、永住権の積極的 な付与など、法的地位を安定化していくことが求められよう。同時に、在留・就労管理を徹底することによって、適法に在留している外国 人に対しては、各種行政サービスの向上を図りつつ、不法滞在者等に対しては、日本国民にある外国人受入れに対する治安面等での懸念を払拭するために断固 たる対応をとることも必要となる。

    (b) 中長期的な外国人材の受け入れ規模
    これも引用。

    中長期的な外国人の受入れ数について、いくつかの試算が出されている。仮に、現在の総人口の規模や生産年齢人口数を維持しようとすれば、相当規模の 外国人の流入が必要になる。国連の試算10では、2050 年時点で総人口のピーク 時(2005 年)の水準を維持するために必要な外国人流入数は、累計で 1,714 万 人(年平均 38 万人程度)と推計されている。また、経済産業省の試算11でみて も、生産年齢人口のピーク(1995 年)を維持するためには、単純計算で 2030 年までに約 1,800 万人(年平均 50 万人程度)もの外国人を受け入れる必要が 生じるとしている。

    さてツッコミどころ満載だが、順番に片付けていく。
    (1) 成長力の強化

    持続的な経済成長は、所得の増加や雇用の創出を通じて、人々に豊かな暮らしをもたらす基盤となる。

    ここ笑うところ? 賃下げ派遣切りで思い切り社会不安を作り出した元凶が何をふざけたことを。

    ①研究開発活動の促進

    今後、わが国の研究開発投資を拡大していくためには、企業の研究開発投資 に焦点を当てた政策税制の充実が最も有効である。

    また企業減税かよ。何のために内部留保を400兆もためこんでるの? まさしく研究開発に投資するためでしょうが。一社でまかなえねえんだったら複数社で共同開発すればいいだろ。どこまで税金を搾り取るつもりなんだよ。

    ②イノベーションを担う人材の育成と招聘

    とくにアジアの優秀な学生をひきつけ、高度人材の育成力を高めていくことが急務である。

    なんでアジアなんだよ? アジアのどこだよ? 阿保かこれが中国人を意味していることは馬鹿でもわかるわ。アフリカや中東はどうした。世界中で取り合いなんだから出身国の選り好みをしてる場合か。

    ③世界の成長力の取り込み
    EPA/FTAを締結して欲しいんだろ。その方が商売スムーズにいくし、原材料や中間製品の輸出入も安くなるし。取り繕ってんじゃないよ。

    ④地域の活性化と道州制
    そりゃ国家を相手にするより道州に分割した単位に陳情した方が効果は高いわな。いざとなったらよそへ移す! と脅しをかければいいんだから。国外へはおいそれと出て行けなくても道州間なら簡単だしな。

    (2) 未来世代の育成
    ①少子化対策への真剣な取り組み
    何ひとごとみたいに「要請」してんだよ。てめえらの生産性を上げるためだろ。まず身銭を切れよ。社内保育、在宅勤務、フレックス勤務を正しい形で導入したらどうだ。それと労働時間は一日八時間だ。なんでも行政にたかるんじゃねえ。

    ②教育の再生

    また、子供一人当たりの教育費の増加などの経済的な理由から、はじめから 子供を持つことをあきらめてしまったり、本来望んでいる数の子供を持てない といった声も多く聞かれる。

    給与が安いからですよ。特にお金がかかるのは高校、大学ですが、授業料などの値上げは天井知らずです。意図的に話をそらせて行政に責任をかぶせていますね

    (3) 経済社会システムの維持に必要な人材の活用・確保
    ①女性の社会進出の促進
    これ昔から言われてるけど、コストがかかるからちっとも実現しませんね。企業自身やる気ないもの。自分たちがまず改革を進めたらいかが。

    ②国際的な人材獲得競争と日本型移民政策の検討
    (a) 高度人材の積極受け入れ
    これは確かに必要です。で、企業として何をどうするわけ? 自分が欲しがってる人材なんだから、まず自分たちがどのような改革を行ったかを示すべきでしょう

    (b) 留学生の受け入れ
    今度は大学、大学院頼みかよ。日本の学生は大学の教育と企業が欲しい人材のミスマッチが起きているから採用できないとか散々批判しておいてこれですか。企業としての施策を示したらどうなんだ。

    (c) 一定の資格・技能を持つ外国人材の受け入れ。
    日本人より安い給与で働くと思ってるんだ。まあ働かせるんだろうけど、その結果何が起きるかリスクをまったく想定していないのは論評に値しない

    ③受け入れた外国人材の定着の推進
    (a) 地域・政府・企業における積極的対応の必要性。
    さりげなく、最もコストのかかる医療費や年金等の社会保障費やセーフティネットについて行政丸投げってどういうことだ。企業が欲しい人材なんだろ。企業が自分で面倒を見ろ。

    (b) 中長期的な外国人材の受け入れ規模
    国連や経産省の統計資料という形で客観性を装って、移民大量受け入れを認めさせる狡猾な手口。「②国際的な人材獲得競争と日本型移民政策の検討」の「(c) 一定の資格・技能を持つ外国人材の受け入れ。」で単純労働者の受け入れに含みを持たせているのはここに繋がる。「なんせ人がいませんから。やむをえませんなあ」とする伏線に過ぎない。ここでもそんなに大量の移民を受け入れてしまった場合の社会コストの負担について何も言及しない。

    そう提言全般についてコストのかかるところは行政まかせ、丸投げで負担を逃れようとし、上澄みのおいしいところだけをもらっていこうというのが経団連の提言なのです。そしてそのコストを負担するのは結局我々国民です。経団連は手始めに「消費税を福祉目的税として税率を10%に引き上げるよう」求めていますが、これは企業の社会福祉負担を軽減するための最初の攻撃です。ご存じのように健保や年金等は会社と従業員が折半して支払っています。その会社折半分を消費税ということで置き換えて貰いたいのです。400兆溜め込んでてまだ溜め込むつもりです。呆れてものもいえません。今や経団連は財界を代表して政府、自治体にたかれるだけたかろうとしているのです。我々はそんな企業の身勝手を許してはなりません。

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  • 企業の内部留保はどこから来たのか

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    いささか旧聞に属するが、経済101 の「内部留保再び」について素朴な疑問があるので。

    財務省の統計によると、国内企業の内部留保が400兆円を越えたそうだ。資本金10億円以上の大企業に限っても200兆円あるという。例によってそれを取り崩して雇用に回せ云々という議員がいたようだが、それは置いておく。

    財務省・財務総合研究所の「法人企業統計調査」における内部留保とは、資本金+資本剰余金+利益剰余金+自己株式+αのことである。資本剰余金とは資本取引(増資など)で得たお金のうち、資本金に組み入れなかったお金のことである。この資本剰余金は、平成11年度では約48兆円だったものが、平成20年度には100兆円を越えており、内部留保の増大に一役買っている。また、利益剰余金とは、純利益から配当金や役員賞与金などの社外流出分を差し引いた金額であり、貸借対照表では貸方の「資本の部」(日本では「純資産の部」)に勘定科目として表示される。平成11年度は約157兆円だった利益剰余金が平成20年度には約280兆円になっており、これが内部留保の数字を大きく上昇させている。従って、元記事

    詳しくは会計の専門家に任せるとして、ポイントは内部留保が資本=BS(貸借対照表)の右側だということだ。BSの右側は基本的にお金ないし資産がどこから入ってきたかをメモっておく場所であって、企業がお金持ち(=資産が多い)であることを示すわけでもお金儲け(=利益が多い)をしていることを示すわけでもない。

    は厳密には誤りである。純資産が対照表の右側にあるのは、資産ー負債=純資産という関係上そうなっているに過ぎない。つまり、企業には儲けたお金や調達しておきながら余ったお金が累積して今では国内企業全体で400兆円近くもあるということなのである。もちろん、これを持ってして企業がお金持ちだとか利益率が高いといった類の議論はできない。元記事にもあるように貯金がたくさんあるからと言って、収入が多いとは限らないのである。また、現金でそのまま持っているわけでもない。何かに投資したり、有価証券を購入したりしているところがほとんどだろう。お金をただ寝かせておくだけというのは企業の行動として愚の骨頂だからだ。

    しかし、である。リーマンショックで業績を下方修正しなくてはならないとなった時、慌てて派遣切りを行い、内定を取り消して学生を路頭に迷わせ、希望退職を募り、ワーキングプアが社会問題化するほど賃金を切り下げる…ことが必要だったほど財務が悪化していたとはとても思えない数字である。もちろん、資金繰りができなくてやむを得ずといった企業も少なからずあったであろう。それでもそういう企業はほとんどが零細企業であり、日本全体がそうであるわけではない。であるにも関わらず企業は人を積極的に雇おうとせず、しかも少ない人数で仕事をこなすために恒常的に長時間労働が行われているという実態がある。これを裏付ける資料も財務省が出している。法人企業統計調査では、平成11年度から平成20年度にかけて人件費はほとんど変わっていないが、内閣府の出している国民経済計算では名目雇用者報酬はむしろ減っている。これでは利益に応じた投資を雇用に対して行っていないと言われても仕方がないであろう。

    なぜ雇用しないのか。利益がありながらなぜ労働者に分配しないのか。この問いに対して元記事では回答していない。私は小泉内閣の経済改革を決して評価しないわけではないのだが、この結果を見ると雇用政策においては明らかに失敗であったと言わざるをえない。雇用の流動性も確保できず、正社員や公務員は御身安泰で勝ち組、負け組などとうつつを抜かして問題を先送りどころか悪化しているのを黙認するような現状をどう思っているのだろうか。おいしいところだけを持って行こうとする企業に、法人税も減税されたんだから、少しは日本の雇用に貢献しろよと言うことはそんなに無理な話なのだろうか。私にはとてもそう思えない。

    参考1: 財務省・財務総合研究所「財政金融統計月報第689号」
    参考2: 内閣府「平成21年度年次経済財政報告・国民経済計算」

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  • 反論『「就職する」ということがどういうことか知ってほしい 』

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    アゴラに掲載された『「就職する」ということがどういうことか知ってほしい 』という記事に対する簡単な反論。

    BLOGSに掲載された橘玲氏の「牛丼と革命―未来世界のマックジョブ」を読んで、企業が正直に自分たちが欲しい人材を追求したときにこのような形に行き着くのだろうなと思った。

    社畜云々の議論はここでは置いておく。リンク先を読めばおわかり頂けるだろうが、すき屋のゼンショーグループが徹底したマニュアル化と社員管理で生産性を上げているという話だ。その中でもここに注目して欲しい。

    軍隊では、命令に従って敵兵や民間人を殺害したとしても、兵士個人の責任は問われない。同様にマックジョブでは、規則やルールに従っているかぎり、社員やクルーはいっさいの責任から解放されている。規定の時間内に決められた動作ができさえすれば人格は評価に関係ないのだから、人間関係で悩むこともない。マックジョブは、外国人労働者だけでなく、障害者や性的なマイノリティなど、差別の対象とされるひとたちも平等に扱うことができるのだ。

    そう。ここで社員/クルーに求められているとしているのは、組織に忠実であること、規則やルールに従い規定の業務を遂行することであり、それ以上でもそれ以下でもない(実態がそうなのかどうかは別にして)。私などいかにも全共闘世代の考えそうな企業運営だと思ったが、この記事を読んだ限りではそれは経営者のポリシーであり、部外者が口を差し挟むようなことでもない。ところが、松岡氏はこの記事を紹介した後、こう続ける。

    逆を言えば企業が最も欲しくない人材は「優秀で会社への忠誠心が低い人材」ということになる。いくら優秀でも辞められたら元も子もないので、採用する側にとって会社への忠誠心というのは非常に重要な要素である。

    じゃあ「優秀じゃないけど忠誠心も低い人材」ならいいのかといった揚げ足取りはしない。「優秀で会社への忠誠心が高い人材」を企業は欲しているというだけなら当たり前のことだ。世界中の企業が求めている。政府だって求めている。だからこそ、

    このようなことを知らずに就職活動を営んでいる学生が非常に多いように思う。就職活動自体に気を取られ、そのあとのことなど考えていない。今年の大卒の就職内定率は57.6%(文科省・厚労省調査)ということなので、ただ「職に就く」ということだけでも大変なことだとは理解出来る。だが、このような時代だからこそ、今一度「自分が何をしたいのか?」ぐらいは考えたほうがいいのでは思う。

    ここで「自分が何をしたいのか?」などと自分探しをさせるような意見に首をかしげる。確かにやりたくもない仕事に就けば忠誠心を高めようがないというのも頷けない話ではない。だが、仮にそんなこと—自分が何をしたいか—を一生懸命考えて答えを得たとしても、それは組織への忠誠に全く関係しない。せいぜい就職先の選り好みが明確になるくらいだ。なぜか。
    学生は就職説明会や面接などで担当者から企業についてある程度話を聞くことができる。就職サイトなどで情報を集めることができる。しかし、それは組織の外面をなでるだけの行為であり、彼が本当に知りたいこと、自分はこの会社でやっていけるか、この会社は自分を評価してくれるか、はわからないのである。選考に落ちるか、入社するかするまでは。

    一般的によく知られている大企業に勤めること自体が、自分の自己実現と捉えている学生も多いだろう。特に有名大学出身者にはそのような傾向が強い。そして、念願の大企業に運良く就職出来ても、彼らはそれが自らが夢見ていた職場環境ではないことにがっかりしてあっさり辞めていく。

    と筆者は言うが、私が学生だった時代から、自己実現を求めて就職する学生などいない。本気でそれを求める学生は起業するなり芸術に邁進するなり、いずれにせよ我が道を行く。ただ、数多ある面接マニュアルで入社して何をしたいか聞かれたら、中身のない人間だと思われないようにそう答えろと書いてあるからそう言ってるだけだ。それをちゃっかりしてるととるか、情けないととるかは人それぞれである。だが、就業経験といってもせいぜい末端のアルバイトであり、仕事と言われてもそれしか想像しようのない学生に、何をしたいと問う方がこの場合は愚かだろう。そういうのは中途採用の人間に聞くものだ。また、入社三年目までに辞めていく人間は「自らが夢見ていた職場環境ではないことにがっかりしてあっさり辞めていく」というのはその通りだが、夢見ていた職場環境の意味するところが違う。

    ここで興味深い調査がある。独立行政法人 労働政策研究・研修機構が平成19年に行った若年者の離職理由と職場定着に関する調査である。この第一部 調査結果の概要、第1章 「若年者の職場定着にかかわる調査」(在職者調査)、2.中途採用者の前職の状況 では、

    仕事満足度が低い者ほど、入社後3年 未満で離職した割合(勤続 3 年未満)が高い。

    となっている。確かにこれだけを見ると筆者の述べることも肯けなくはない。しかし、

    前職が「やりたい仕事をやらせてもらえない」状態であったかを尋ねたところ、やりたい仕事をやらせてもらえなかった者(「そう思う」+「ややそう思う」)は、正社員で 31.6%、 非正社員で 22.0%だった。

    と続くに至って、あれっと思う。そう仕事内容に不満があって辞めた人間は正社員で3割ほどなのだ。

    前職が「仕事の責任が重すぎる」(以下、「仕事の重責度」と略す。)状態であったかを尋ねたところ、仕事の重責度が高かった者(「そう思う」+「ややそう思う」)は、正社員 で 39.8%、非正社員で 22.2%だった。

    入社して間もない社員が責任が重すぎると感じるのは少々おかしい。非正社員であればなおさらである。入社して3年など、まだ仕事を覚えるべき段階であり、責任どうこうが問題になる段階ではない。

    規則やルールに従っているかぎり、社員やクルーはいっさいの責任から解放されている。

    とは少し異なる企業実態がそこにはあるような気がする。

    前職が「仕事量が多すぎる」状態であったかを尋ねたところ、仕事量が多すぎたとする者(「そう思う」+「ややそう思う」)は、正社員で 53.5%と 2 人に1人が仕事量の過多を感 じていた。非正社員でその割合は 29.5%であり、その内訳は、「パート・アルバイト」で 26.4%、「パート・アルバイトを除く非正社員」で 33.6%となっている。

    若者が軟弱だからとか、若者の甘えというのは理由にならない。若者に問題があるのなら、なぜ一日八時間の仕事が多すぎると思うのかを分析し対応策を練るのが企業経営者(もちろん、教育関係者も)や労務管理担当者の仕事であり、一日八時間以上、つまり残業が定常化しているなら、やはりそれは企業の問題だからである。

    前職が「求められるノルマ・成果が厳しい」状態であったかを尋ねたところ、ノルマ・成果が厳しいとする者(「そう思う」+「ややそう思う」)は、正社員で 40.2%と 4 割を占め る。非正社員のその割合は 18.5%であり、その内訳をみると、「パート・アルバイト」は 16.1%で、「パート・アルバイトを除く非正社員」が 21.6%となっている

    くどいようだが、

    規則やルールに従っているかぎり、社員やクルーはいっさいの責任から解放されている。

    随分と実際は異なるようだ。さらに、

    前職が「仕事上のストレスが過大である」状態であったかを尋ねたところ、ストレスが過 大だったとする者(「そう思う」+「ややそう思う」)は、正社員で 63.2%と、6 割以上が ストレスの過大を感じていた。非正社員でその割合は 34.4%で、その内訳は、「パート・ アルバイト」で 30.2%、「パート・アルバイトを除く非正社員」で 39.9%となっている。

    という結果に至っては、むしろ企業の方がおかしいのではないかという懸念が増す。

    前職が「労働時間が長すぎる」状態であったかを尋ねたところ、労働時間が長かったとす る者(「そう思う」+「ややそう思う」)は、正社員で 54.2%と、2 人に1人が長時間労働 を感じていた。非正社員でその割合は 25.3%であり、その内訳は、「パート・アルバイ ト」で 21.7%、「パート・アルバイトを除く非正社員」で 29.9%だった

    これは労働条件が劣悪だと彼らが思っているということだ。

    前職が「休暇が取りづらい」状態であったかを尋ねたところ、休暇が取りづらかった者(「そう思う」+「ややそう思う」)は、正社員で 57.7%と過半数に及んだ。非正社員でそ の割合は 36.1%であり、その内訳をみると、「パート・アルバイト」で 36.7%、「パー ト・アルバイトを除く非正社員」で 35.4%と 3 人に 1 人が休暇を取りづらいと感じていた

    これもそう。

    前職が「賃金が低すぎる」状態であったかを尋ねたところ、低賃金と思っている者(「そう思う」+「ややそう思う」)は、正社員で 52.9%、非正社員で 49.5%となっている。非 正社員の内訳をみると、「パート・アルバイト」で 51.8%、「パート・アルバイトを除く 非正社員」で 46.6%となっており、いずれの就業形態も半数は前職の自分の賃金は低すぎ ると感じていたことになる

    なるほど。夢見ていた労働環境とは違ったわけだ。しかしそれは、自己実現がどうのこうのといった抽象的な理由などとは断じて違う。具体的な労働条件に不満があるのであって、若者は絵空事を言っているわけではない。

    前の職場が「人を育てる雰囲気がない」状態であったかを尋ねたところ、人を育てる雰囲 気にないと思っていた者(「そう思う」+「ややそう思う」)は、正社員で 51.5%と、2人 に1人が人材育成に適した環境ではないと感じていた。非正社員ではその割合が 39.2%で、 その内訳をみると、「パート・アルバイト」で 34.2%、「パート・アルバイトを除く非正 社員」で 45.7%となっている

    この結果に至っては、企業の労働環境が劣悪だったことを辞めた理由に挙げる人間が半数もいる。という事実に経営者は注目しなくてはならない。さらに、

    前職の入社当初の配属先の教育等の体制(「教育・指導する担当者(メンター1)」及び「すぐに仕事上の質問ができる上司・先輩」)の有無を尋ねたところ、メンターについては、 正社員で 61.9%、非正社員では 56.0%が「いた」としている。非正社員の内訳をみると、 「パート・アルバイト」で 54.1%、「パート・アルバイトを除く非正社員」で 58.4%とな っており、いずれの就業形態も過半数は入社当初の配属先で、会社が設けた教育・指導担当 者(メンター)がいたことになる(図表 2-43)。
    次に、仕事上の相談ができる上司・先輩の有無についてみると、正社員で 66.6%、非正 社員では 66.8%が「いた」としている。非正社員の内訳をみると、「パート・アルバイ ト」で 66.7%、「パート・アルバイトを除く非正社員」で 67.0%となっている。いずれの 就業形態にかかわらず、3人に2人が、入社当初の配属先で、仕事上の相談ができる上司・ 先輩がいたことになる

    とあるように、一応体制は用意されているところが多いものの、それが実際的に機能していない企業があるという問題点が浮かび上がる。

    前職の職場の人間関係を尋ねたところ、職場の人間関係が良好(「良好だった」+「まあ 良好だった」)は、正社員で 64.1%となっており、非正社員(特にパート・アルバイト。 72.6%)のほうが良好とする割合がわずかながら高くなっている

    逆に言えば、正社員で辞めた人間の3人に1人は人間関係に問題があったと思っているということである。

    次に、前職の勤続年数を職場の人間関係別にみると、正社員で職場の人間関係が良好にな るほど、勤続 3 年未満の割合(「半年未満」+「半年~1 年未満」+「1~3 年未満」)が低 くなる傾向にある。とくに「半年未満」をみると、職場の人間関係が良好ではなかったとす る者(20.8%)のほうが、良好だったとする者(5.5%)よりも 15.3 ポイント高くなっている

    そして、早期に退職する者は人間関係で躓いていた者が多いという結果に至って、問題点がどこにあるか、なぜ若者がせっかく就職した会社を退職するのかの理由がひとつ明らかになってくる。

    では、これの裏返しが、企業の求める「忠誠心の高い人材」なのだろうか。どんな仕事でも不平を抱かず、責任を押し付けられても文句も言わず多くの仕事を黙々とこなし、常態化した残業を厭わず、休みが取れなくても気にせずに安い給料で嬉々として働き、職場の人間関係など気にしない、むしろ問題があれば率先して解決する。馬鹿馬鹿しい。それは経営者や起業家のあり方であって、社員に求めるあり方ではない

    事業拡大や後継のために経営人材を求めるというのであれば、確かにそういう人材でなければ、勤まらないというのはわかる。だがしかし、それはまだ学校も卒業していない人材に求める資質であろうか。とんでもない。それなら最初から経営者を募集すればいいのである。できるはずもないことを若者に押し付け、不景気をいいことにあまりにも都合のいいことを吹聴して恥じない経営者が多いことに吐き気すらする。バブル以降の就職難だって本当は作られたものであることは、過去の統計と比較すればよくわかる。昭和の世界大恐慌の折りですら、今ほどの就職難ではなかったのだ。(少年犯罪データベースドアの「就職は大恐慌時より今の方が厳しいのです」という記事を参照して頂きたい)バブル期の超売り手市場に振り回された経験があることを加味しても今の就職市場/労働市場は異常である。

    となれば、元記事の内容がいかに企業経営者にだけ都合のよい欺瞞に満ちた、もしくは無知に基づく内容であるかわかるであろう。

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